何故日本のコンテンツは複数サイトでクラウドファンディングする様になったのか?

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日本もコンテンツの制作にクラウドファンディングを利用することは最早一般的になっています。またKickstarterやIndiegogoを通じて世界規模で資金調達を行うケースも多いです。そうした中、最近はKickstarterで資金調達しつつ、国内の別サイトも併用して資金を調達するケースが散見されます。これは一体何が起こっているのでしょうか?

選択肢はKickstarterだけでは無くなって来た

Kickstarterそのものが資金が集まりにくくなった、という議論はひとまず脇に置いて、日本発のゲームはKickstarterで華々しい結果を残してきました、シェンムー3、Mighty No.9、LA-MULANA2、Bloodstained、etc・・・。ゲーム開発は年単位の長い時間がかかるものですが、これらの中には既にゲームを完成、あるいはそこまでもう1歩というタイトルが複数有ります。

しかしKickstarterがメイン処だったこれらのタイトルに比べると、最近はKickstarter+他のクラウドファンディングサイトという2刀流でキャンペーンを行うところが増えてきました。なぜこうした現象が起こっているのでしょうか?

KickstarterはAll-or-Nothigしか選べない

Kickstarterの資金調達には条件が有って、全てのキャンペーンはAll-or-Nothing形式で行われます。このAll-or-Nothingとは一定の目標額を超えたときのみ、資金を貰えるというタイプで、もし目標額に達しなければ資金は貰えません。99%目標を達成していても1%足りなければアウトです。そのためキャンペーン運営者としては常に資金を獲得できないリスクが有ります。

ここで実際にKickstarterとCAMPFIREの両方でクラウドファンディングを行っている例としてVRゲームの「東京クロノス」を見てみましょう。国内WebメディアでもPR活動を行っていたので、既に出資済みの読者もいるかも知れません。
実際のキャンペーンの運営をKickstarterで日本のコンテンツを売り込むのに長い経歴の有るsekaiprojectさんが行っていると言うことも有り、私も初期から注目していました。

 

こちらがKickstarterのページ。400万円くらいまではスムーズに集まったのですが、その後少し伸び悩み現在600万円ほどの調達額で推移しています。残り7日ですが、既に80%目標を達成しているため、最終的には目標を達成できると考えています。

 

そしてこちらがCAMPFIREのページ。
こちらは目標額250万円ということもあり、既に目標額を超え500万円ほどが集まっています。国内でのキャンペーンは健闘しておりKickstarterに負けていません。

ここで注目してもらいたいのが、そのキャンペーンの行い方です。良く見るとCAMPFIREではAll-in形式でキャンペーンを行っています。

All-in形式では出資額の大小に関わらず、キャンペーン終了後はプロジェクトを行わなければいけませんが、集まったお金は必ずもらえます。つまり、資金がどれだけ集まったかに関係なく、既に開始が決定しているプロジェクトならAll-in形式で行えば、目標額に達せず集まったお金を逃がすというリスクが無いわけです。

逆に言うと、Kickstarterで失敗したときのリスクヘッジとして国内サイトでクラウドファンディングを行っていると考えることも出来ます。

 

同様の例はフロントウイングさんのグリザイア:ファントムトリガーでも見ることが出来ます。

こちらもKickstarterとCAMPFIREでは資金の集め方が異なっています。フロントウイングさん自体はかなり積極的にKickstarterにキャンペーンを出すところですし、今回も達成できると考えていますが、これらゲームメーカーの行うキャンペーンはリスクヘッジとしてAll-in形式と併用する形に落ち着いているようです。

デメリットは無いが…

こうした複数のサイトでクラウドファンディングを行うことそれ自体は問題有りませんし、特にデメリットも無いです。Kickstarterはどうしても英語表記になる為、国内向けに日本語の記載だけで済むCAMPFIREなどでキャンペーンを行うのは有効でしょう。強いて言えば、複数のサイトで運営しないといけないので人件費を含めた管理コストが余計にかかることくらいでしょうか?

しかし、そもそもKickstarter単体で数千万、あるいは億単位で資金が集まるようならこうした工夫は必要ないわけです。世界最大のクラウドファンディングサイト、Kickstarterで数百万円の調達額に留まるようになったのは日本のコンテンツが相対的に訴求力が弱くなったと捉えることも出来ます。実際今でも1千万を超えて大きく伸びていくゲームプロジェクトは有るわけですから。

資金には困ってはいないケースも

また非常に資金に切迫した状況でクラウドファンディングを行っているわけではない、ということも注目すべき点です。

そもそもクラウドファンディングでAll-or-Nothing形式が普及したのは、手持ち資金が無く目標額に届かないお金が集まってもコンテンツが作れなかったからです。悲しいですが、目標額に達しなかった場合、需要が無いとして制作を打ち切れば将来的な赤字を防ぐことが出来ます。

一方でAll-in形式でクラウドファンディングが出来るということはプロジェクトを行うのは決定している、つまりお金が集まらなくてもプロジェクトを進められる資金力や組織が有るということです。この場合、クラウドファンディングを行うのは開発中のプロモーションの一環という考えで行われます。

これも決してマナー違反では有りませんが、資金が無く制作ができないから消費者から資金を集める、というクラウドファンディングの当初の理念とは異なる方向に進んでいる様にも思えます。そもそもAll-in形式はNPOなど慈善事業が寄付を呼びかけることに推奨された調達法でした。それを営利且つ資金力の有るメーカーが使うのは今後議論を呼ぶかもしれません。